一級建築士事務所ヒダマリデザイン設計室

一級建築士事務所 ヒダマリデザイン設計室|森とつながる木の家づくり

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Sunny dayひかりの記憶

ひかりの記憶

私は、東京都内にあるマンションの一室で育ちました。
このマンションは、ほぼ同じ間取りのつくりで
私の家の照明は、天井の蛍光灯だけ。
1つの部屋に1つのあかり。隅々まで白っぽいあかりに包まれた環境。
何の疑問もありませんでした。

小学生に上がるか上がらないかのころ、
2軒となりの友達の家へ遊びに行きました。
同じ間取りなのに何かが違う…。いや、何もかも違う!
「居心地がいい、ずっとここに居たい」という感覚。
自分の家に帰っても、何が違うのかよくわかりませんでしたが、
とてもうらやましく感じたのを覚えています。

その友だちのお父さんは建築家、お母さんはインテリアデザイナーで
あることを友だち一家が海外へ引っ越した後に知りました。

大人になって、とある建築家のお宅へ伺ったときのこと。
あの2軒となりの友だちの家に行ったときの感覚がよみがえりました。
ダーク調の家具、オレンジ色のやさしいあかり。
空間には、光の濃淡ができている。
あぁ、この感覚!
居心地のよさってこういうことだったんだ。
子どものころの不確かな感覚は、
確かなものに変わりました。

以来、建築家という職業と光にすっかり魅了され、
建築の仕事について「心地よさ」と「光」を探求しています。

ひかりの記憶

木の記憶

21歳の夏。
北海道にも拠点のある、ちょっと変わった設計事務所のワークショップに参加しました。
参加者のほとんどが学生で、初対面の人ばかり。
設計事務所の所員さんたちとキャンプをしながら数日間かけてお祭りの準備をします。
私は公園の一部にある窪みのような場所に、ドームをつくるという班に入りました。

最初にやったのは、森の中に入って裸足になること。
土と足が触れ、意外と温かく気持ちのいい感触。
続いて、森の中の木に手で触れます。
私たちは自然と、全身で森の中に居ることを感じていきます。
チェーンソーの使い方を教わって、私たち学生は細い木を切ります。
手に伝わってくるビリビリとした振動。
手を離してはいけないという緊張感。
生きている木を切り、一本一本、命が終わる瞬間に立ち会います。
この後、この細い木を束ねてドームにしていく作業に移ります。
初対面だった私たちは、だんだん仲よくなっていきました。

木を束ねている作業中のこと。
母より、病院で療養中の父が危篤であることを知らせる電報が届きました。
周りの方々がよくしてくださって、急いで飛行機に乗って東京に帰ることができ、
幸いなことに父に会えて、お別れすることができました。

親しくなった参加者の方から、たくさんの写真とともに、
分厚いお手紙をいただきました。
ドームが完成したこと、お祭りも成功したこと、
みんなが私を心配してくれていたこと。
温かい想い出とともに、木の記憶があります。

木の記憶。
木を切る瞬間、手に伝わってきたチェーンソーのビリビリとした振動と
森の中で触れた土と木の感触。
「自然と建築」というコンセプトで活動している、この設計事務所の考え方に
体験として触れることができたことは、今でも私の中で小さくも大きな火種となっています。